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腎臓再生医療
2008. 6. 4

Wnt4などの遺伝子再発現で尿細管細胞が再生
アポトーシス阻害薬の応用にも可能性


急性腎障害(AKI)による尿細管障害の病態改善に、尿細管細胞の発生・再生を促す液性因子の導入による尿細管細胞の再生医療が有望であり、また、アポトーシス阻害薬の応用によって尿細管細胞を再生する治療法にも可能性があることが分かってきた。高知大内分泌代謝・腎臓内科教授の寺田典生氏(写真)が、第51回日本腎臓学会のワークショップ4「腎臓の再生−−最近の進歩と今後の課題−−」で報告した。

 AKIは、入院患者の4〜5%、ICU入院患者の20%近くで発症し、死亡率は3割を超える。しかし、AKI患者の4割で尿細管細胞が再生、修復することが認められており、この面から病態解明が進んできた。

 AKIで尿細管細胞が再生するには、その元となる細胞がどこから来るのかが問題になり、現在、3つの考え方がある。骨髄幹細胞由来の何らかの液性因子が尿細管細胞の再生を促すという説、腎内に尿細管の幹細胞が存在しそれが元になっているという説、そして寺田氏らが提唱する、尿細管細胞が虚血などの刺激によって脱分化(dedifferentiation)し、増殖、再生するという考え方だ。

 胎生期に腎臓の尿細管が発生するときには4つの遺伝子(Wnt4、Delta、Notch2、Hes)が関与し、これらはいずれも、AKIで尿細管が再生するときにも発現することなどが確認されている。寺田氏は、これらの知見を元に、尿細管が障害されると、尿細管細胞の一部が未分化の状態に形質転換し、幹細胞的性格を獲得、それがWnt4などの遺伝子によって尿細管細胞へと再生され、尿細管が修復されるとの仮説を立てた。

 そして、尿細管が障害を受けると、様々なシグナルが出て、それによって尿細管細胞が脱分化すると同時にWnt4、Notch2陽性細胞が発生、増殖し、尿細管細胞へと分化していくリカバリー・サイクルの存在を証明した。これによって、尿細管が障害を受けたときに、このリカバリー・サイクルを促進する液性因子を導入すれば、AKIの新しい治療法となり得ることが分かった。この成果は、2008年6月の「Kidney International」誌に掲載された。

 しかし、尿細管障害の程度が強い場合には、シグナルが回らず、尿細管細胞がアポトーシスに陥り、腎機能は回復しなくなる。その場合は、新規に幹細胞やES細胞、iPS細胞を導入する細胞治療の可能性が考えられる。寺田氏らは、マウスのES細胞を用いたin vivoの研究を行い、尿細管マーカー陽性の管腔形成を確認している。

 また、AKIによって尿細管細胞はダメージを受けるが、中等度のダメージであれば、細胞は壊死せず、アポトーシスの段階に留まる。寺田氏らは、アポトーシスになるよう調整することによって、尿細管細胞の再生、腎機能の修復が可能になると考え、尿細管細胞がアポトーシスに至るパスウェイを検討した。

 着目したのは、アポトーシスを起こすJNKと、アポトーシスを防ぐPI3Kという2つの遺伝子で、研究の結果、ASK1という遺伝子がAKIの予後増悪因子の1つであること、PI3KinaseとAktが腎機能保護作用を有するとの結果を得た。そして、C型肝炎や関節リウマチの治療に用いられているアポトーシス阻害薬が応用できる可能性があるとした。

 以上から寺田氏は、尿細管の再生医療の可能性として「尿細管の再生を促進する液性因子の解明と開発、細胞治療による尿細管細胞の再生、アポトーシス阻害薬の応用がある」と結んだ。

2008. 6. 4

腎臓の再生医療への近道はiPS細胞か?
課題は多いが老化抑制の期待も

腎臓は再生医療の最も困難な臓器とされるが、第51回日本腎臓学会のシンポジウム5「腎臓と老化」では、大阪大大学院先端移植基盤医療学准教授の猪阪善隆氏(写真)が「iPS細胞を用い、腎臓の細胞、ネフロンあるいは腎臓全体へ分化誘導し、移植することが、現時点では最も可能性が高い再生医療だろう」と語った。

 古来、中医学で「腎虚」とは老化が進行していることを指しており、「腎機能障害と老化の表現型は類似していることから、腎障害は老化の促進因子の一つと考えられる」(猪阪氏)とした。例えば、腎移植でドナーが60歳の父親、レシピエントが30歳の息子という場合、移植腎の細胞の老化はドナー年齢のみと相関し、拒絶反応などとは相関しないこと、老化モデルであるKlothoマウスの表現型は、動脈硬化、異所性カルシウム沈着、骨粗鬆症など腎不全と似ていることなどが、その根拠だ。猪阪氏は、「従って、腎臓を再生することが、老化に対する再生医療になり得る」とした上で、腎臓の再生医療の可能性についての検討結果を報告した。

 まず、考えられるのは、未分化細胞あるいは最終分化細胞まで再生し移植する手法で、既に骨髄細胞や組織幹細胞などを移植することで、腎障害が改善したり、尿細管に分化したとの報告がある。

 ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)を分化させて、移植する方法も考えられる。その場合はどのような因子によって、メサンジウム、ポドサイト、尿細管など腎臓の構成細胞に分化させるのか、どの段階まで分化させるのか、どのように移植するのか、どのタイミングで移植するのかなどが課題になってくる。治療のニーズに細胞調整のタイミングをどう合わせるのかも難しい。

 一方、マウスを用いた実験では、筋障害のある高齢マウスと健康な若年マウスの血管を吻合したところ、若年マウスの血清によって、高齢マウスの幹細胞の再生能力が復活することが確かめられており、「構成細胞ではなく、幹細胞の再生因子を分泌する細胞を移植することで、腎臓が再生する可能性がある」(猪阪氏)という。

 腎臓を臓器として丸ごと再生させる方法も考えられる。猪阪氏は、東京慈恵医大の横尾隆氏らの研究を紹介し、既に機能する糸球体の再生まで進んでおり、今後、移植に適した腎機能を持つ大きさに再生できるかどうかが注目されるとした。

 ネフロンを再生する方法も、いくつか考えられている。角膜上皮細胞シート移植を応用して、コンピューターで糸球体の薄いスライスを描き、その形に合わせて細胞を培養し、その細胞シートを重ねて三次元構成していくアイデアが紹介された。

 インクジェットプリンターの技術を用いて、血管の内膜に培養した血管内皮細胞、外側に血管平滑筋細胞を一つずつ“印刷”する手法の応用や、組織培養担体の工夫で、血管のネットワークを作るように糸球体ネットワークを形成する可能性も示唆された。

 最後に猪阪氏は、京大の山中伸弥氏らが開発したiPS細胞について「ES細胞に類似した多能性、自己複製能を持っている。しかも自分の細胞を用いるので、拒絶反応や、ヒト胚を利用するES細胞のような倫理的問題もない」とした上で、展望と課題を述べた。

 まず、iPS細胞を用いて糸球体や尿細管、間質などの細胞に分化誘導できるようになったときの安全性の確保が重要なテーマであること、iPS細胞由来の生殖細胞から生まれた個体では、20%で腫瘍が発生するため、この解決も課題だと指摘した。その対策の一つとして、発癌などの副反応が出た場合に移植した細胞を除去できるよう、「自殺遺伝子」をiPS細胞に導入しておくことを提案した。

 iPS細胞は寿命の短い体細胞由来のため、ES細胞のように不死かどうかは確認されていない。猪阪氏は「老化に関連あるテロメア(telomere)の合成に関与する酵素(telomerase)を強制的に発現する『不死化遺伝子』の導入も必要ではないか」とした。さらに、老化に対するiPS細胞による再生医療と位置付けるなら、例えばKlothoのような「老化抑制因子」の導入も検討すべきとした。

 そして、「これらを導入したiPS細胞から、腎臓の細胞、ネフロンのような組織、あるいは腎臓を丸ごと作り出すことによって、初めて腎臓の再生医療になる」(猪阪氏)との展望を示し講演を締めくくった。


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